インドにおけるモノづくりという話

Mumbai;
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モディ首相の来日に合わせ、連日、日印関係の強化に関する話題でニュースが盛り上がっています。その中で9月3日の日経朝刊に「インドでモノづくりを」という記事が掲載されていました。以下、同記事からの引用です。

モディ氏は約2000人の聴衆を前に「インドには低コストで質の高い労働力がある」と指摘、「メーク・イン・インディア(インドでものづくりを)」という政権が掲げるキーワードを繰り返した。特に中堅・中小企業の進出に期待を寄せ、「日本の中小企業は、インドの大企業と同程度の力を持っている」と述べた。

 

これを受けて、インドにおける日本流の「モノづくり」とは果たして可能なのだろうかと考えてみました。以下、あくまでも個人的な感覚や経験に基づく主観ですので、ご留意を。

 

そもそも日本流の「モノづくり」とは何なのでしょうか。

これに関しては既に多くの考察がなされているので、素人に近い僕が見解を述べられる立場ではないのですが、それを可能たらしめている重要な要素の一つとして、製造現場に蓄積された高度なスキルやノウハウが挙げられると思います。なかでも形式知化が困難な、現場に暗黙知として蓄積されたスキルやノウハウが非常に重要な役割を担っているのだと認識しています。

もちろん他にも、日本のモノづくりたらしめる要素は存在するはずですが、ここでは話を簡単にするために、そうした暗黙知的なスキルやノウハウの存在が日本のモノづくりの要件の一つであるとして、それに絞って話を進めたいと思います。

さて、こうした暗黙知的なスキルやノウハウは、その定義により、属人的な性質を持つはずです。属人的で暗黙知である以上、現場で働く方々が、中長期的な時間軸で習得し、また継承していくものだと思います。言い方を変えれば、その現場で働く方々が、中長期的な時間軸で、その現場に留まり続けることが前提条件になっているとも言えます。

 

ここで、インドにおける日本流のモノづくりについて考えてみると、その最大の課題は、雇用したインド人に中長期的な時間軸で現場に留まってもらい、暗黙知的なスキルやノウハウを十分に吸収し活用してもらうこと、ではないかと思っています。

私は他の新興国の事例を知らないのですが、ことインドの中間層においては離職率がどうやらとても高いのです。あくまでも僕の感覚によるものですが、ちゃんとデータを調べても、やはり高いのではと推測します。

例えば今インドで僕が住んでいるアパートは、常時交代で、受付にスタッフが在席しているのですが、このスタッフの皆さんの顔ぶれが毎月入れ替わるのです。おそらく全員で5から6名程度のスタッフが勤務しているはずですが、その顔ぶれがどんどん入れ替わる。本当にコロコロと仕事を変えてしまうのです。顔見知りになったなと思ったら、いつの間にかいなくなってまた新しいスタッフが常駐している。日本のアルバイトのスタッフの方がまだ長くいるんじゃないかと思うくらいの入れ替わり方です。

こうした事例はこちらに住んでいる他の日本人からもよく聞きますので、おそらくインド人の中間労働者層の就業観として、全般的にそうなのではと推測します(もちろん一定層以上のビジネスパーソンになるとまた話は別です)。つまり、少しでも今よりも条件が良い仕事が見つかればすぐに移ってしまう、あるいは今の仕事に少しでも不満があれば辞めてしまう、そんな印象を受けています。そしてこれはインドの製造現場でも同じような状況ではないかと想像します。

 

従って、日本企業が日本流のモノづくりをインドに移管しようとした時、大きな壁となってくるのがこの離職率の高さではないだろうかと思っています。せっかくスキルやノウハウを教育しても、それが身につく前に仕事を辞めてしまうリスクが非常に高いのではと思うのです。当然、それを防ぐために、他企業よりも給与面や待遇面を手厚くすることで、ある程度の離職は避けられると思います。しかし、良くも悪くも個人主義の強いインドの方々を見ているとそう話は単純ではないだろうなと、あくまで直感的にですが、感じています。

ただし、これまでも日本企業は中国や東南アジアに、日本流のモノづくりのあり方を広めてきた実績はあるわけですから、うまいやり方はあるのかもしれません。それらについては僕は具体的なストーリーを知っているわけではないのでコメントできませんが、これまでの他国への製造移管のノウハウを結集すれば、インドへの移管もできるのかもしれません。

そしてもちろんのことながら、これだけ文化が違うので、こうしたハードルが存在するのは当たり前のこと。その前提で、インドにおける製造の意味やあり方について吟味し、試行錯誤しながら、手探りでインドにおける日本のモノづくりを進めていけば良いのだと思います。

インドで製造するということは、コスト競争力やインド市場の獲得以上の意味が存在すると思います。具体的には、中東やアフリカといった更に西側の市場へのアクセスです。ムンバイに住んで実感していますが、こうした西側への拡がりが具体的にイメージできるのがインド(特にムンバイなどの西側の都市)なのです。そうした中長期的な視野で、インドをどう活用するのか、という部分が今後の面白いところかなと思います。