傘を売る人
ムンバイは間もなく雨期(モンスーン)に入ろうとしています。まだ本格的な雨は降りだしていませんが、時折、夜などに短い時間ですが雨が降っています。12月末から5月までの間、ムンバイでは一度も雨を経験せずほぼ晴れの毎日でしたので、これからはどんな生活が待っているのだろうと最近はややドキドキしながら過ごしています。
そんなムンバイですが、先日街を歩いていたら初めて雨傘を売っている人を見つけました。今まで買い物に出かけても傘を売っている店を見たことがなかったので、ムンバイではどこで傘を買うのか不思議だったのですが、どうやら雨が降り出す頃になってはじめて傘の販売が始まるようです。正確には、雨が降り出して「から」ですかね。
この露天の雨傘売りを見て、実にインドらしいと感じてしまいました。
日本人の感覚としては、モンスーンが間もなく始まる前の例えば5月中には、念のため傘を準備しておきたい心理があると思います。しかし、そのタイミングではまだここでは傘は売られていません。実際に傘が売られるのは、本当に傘が必要になってから、つまり雨が一度降ってからなんですね。雨が降ったという事実をもって、実際に傘の販売が開始されるのです。
あえてシンプルに言えば、リスクを事前に想定して備えるのでなく、問題が起こってからそれに対応する、という考え方。あれが起きたらどうしよう、あれが無かったらどうしよう、なんて「たられば」の世界で事前にあれこれ心配するより、「問題が起きてから対処すればいいじゃないか」という潔さ。まさにインドという感じです。
果たして日本人である自分たちはどうなのでしょうね。国際的に見ると、日本人はリスクを想定し万が一に備えることに長けていると思います。その特長によって日本の製品やサービスの安全性や品質が高い次元で保たれているのでしょう。2011年の福島における原子力発電所の事例など、その安全神話が揺らぐこともありますが、総合的に見ればやはり日本のレベルは世界的には非常に高いことは間違いありません。そして、そうした資質は日本人として大切にすべきことです。
しかし一方で、インドのようなおおらかな精神の持ちようもまた人の生き方としては学ぶべき点が多いなあと思っています。実際に起きるかどうか分からない問題を心配して精神的に疲労するよりは、今確実に起こっていることに注力しそれに対処していく方が、気持ちの上では前向きになれそうですし、身軽に生きられそうな感じがします。もちろんそのためには、そうした「緩さ」を受け入れる社会の存在が前提になりますけれど。
何ごとバランスですが、異文化から学ぶべき点はやはり多いものです。