盟友ムンバイへ来たり(エンペラーの会) #12 – 別れ
これは「エンペラーの会インド編第11話」からの続きである。
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今回のダラヴィ・スラムのツアーには羅王と僕以外にイギリスからの青年3人そしてシンガポールからの参加の女性1人も同行している。商業地区を見ながらトーマスは色々な説明をしてくれ、またツアー参加者からの質問を受け付けてくれた。
印象深かったのは同行していたイギリス青年グループとトーマスとのやり取りだ。彼らも自分たちの興味故に質問しているのだろうが、その質問内容がかなり率直、というより日本人感覚からすればやや失礼なものも少なくなかった。例えば、この仕事でいくら収入が得られるのかとか、このビジネスを買うとしたら(オーナーになるとしたら)いくらくらいお金を払えばよいのか、とかそんな質問だ。当然、異国の地でそういった点に興味を持つのは理解できるのだが、モノの言い方として、ダラヴィ・スラムの人々を下に見ているような言い方だったのが気になってしまった。彼らの1人がコソっと仲間に「ここは発展途上国だから仕方ないよね」とのコメントを漏らしていたのも僕は聞いている。
とはいえ、ダラヴィ・スラムのことを正しく知ってもらいたいとの想いからであると思うが、そうした質問に対してトーマスはとても丁寧に答えていた。また、分からないことについては分からない理由をきちんと説明していた。第三者の僕ですら、その青年たちのモノの言い方には若干違和感を感じていたのだから、トーマスとしては内心は穏やかではなかっただろうと思うけれど。
ツアーの途中、その青年グループが少し距離を置いて歩いている時にトーマスと話した時、彼は「このガイドの仕事を通じて学んだことは、どんな時も笑顔でいなくちゃいけないってことだ」と言ったのを思い出す。人の人格や尊厳は、その人が住む場所や環境に関わらず不変なものであり、どんな場所にも尊敬すべき人がいるのだと改めて学んだ。
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商業地区に続いてトーマスが案内してくれたのは居住区。商業地区よりも道は細く入り組んでいる。彼がいなければ迷子になりそうだ。一つ一つの家を通り過ぎる度に「スラム」の響きとは全くかけ離れた、とても普通の生活を繰り返し垣間見た。
トーマスによると、スラムに住むのは決してお金がないからではないと言う(むしろ本当にお金がない人はスラムには住めないと言う)。スラムに住む人の中には、例えば医師といった給与も高い役職に就いている人もいれば、BMW などの高級車に乗る人もいると言う。彼は、スラムに住む大きな理由は、そのコミュニティとしての存在にあると言った。政府の施策の一つとして、スラム居住者に対しその土地を明け渡す代わりに無料でアパートを斡旋するというものがあるそうだが、スラムの人々には不人気だという。基本的に誰も外に出たくないのだ。
ここでもう一度、Wikipedia によると「スラム」の定義を引用する。
スラム (Slum) は、都市部で極貧層が居住する過密化した地区のことであり、都市の他の地区が受けられる公共サービスが受けられないなど荒廃状態にある状況を指す。(中略)スラムの特徴として、高い失業率と貧困が上げられる。このため犯罪や麻薬、アルコール依存症や自殺などが多発する傾向にある。発展途上国の多くでは、非衛生的な環境のため伝染病が流行していることが多い。
ダラヴィ・スラムに関しては、その人口密度の高さという点以外においては、この一般的なスラムのイメージとは全くかけ離れたものだった。そこにはきちんとした仕事があり、また生活をする上で必要なインフラがあり、笑顔で暮らす家族の姿があった。
(写真は以前中央駅にて撮ったもの。今回のダラヴィ・スラムとは無関係)
商業地区そして居住区を見て回るうちに3時間ほどが経過した。予定ではもう少し早く終わるはずだったのだがやや長引いてしまい、羅王が空港に向かわなければならない時間となった。僕はトーマスに事情を説明し、タクシードライバーに場所を伝えてもらい、羅王を迎えに来てもらった。
昨晩ザッキーニが去り、そしてマッチが去り、ついに最後の1人であった羅王との別れの時間だ。トーマス、イギリス人青年たち、そしてシンガポールからの女性が見ている前で、固い握手と抱擁を交わす僕たち。
羅王はそのままタクシーに乗り、空港へ向かった。
3日前の木曜日の夜にムンバイ空港に着いた直後、彼は近くのカフェで時間を潰したい、ネットが使いたいという要望を僕に伝えてきた。今日もまた、本格カレーが食べたい、ダラヴィ・スラムの中に入りたいというちょっと面倒なリクエストを提供してくれた。最後の最後まで、僕の幹事としてのポテンシャルを試し続けてくれた羅王。そして、インドではとてもありつくことはできない、ただし一晩で湿気ってしまうキャラメルポップコーンをお土産として渡してくれた羅王。何よりも木曜日に一番乗りし、今日最後の一人となるまで一番長くムンバイに滞在してくれた羅王。どうもありがとう。また日本で会おう。
羅王と別れた僕は、再びトーマスたちに合流し、ダラヴィ・スラムのツアーに最後まで参加した。
注:ダラヴィ・スラムの内部で撮影した写真は一枚もない。同地域のプライバシーを侵害しないようにと、写真撮影は禁止されていたためだ。もしご興味がある方は、ぜひ自分の目で確かめてみて欲しい。ツアーの申し込みはこちらから: Realty TOURS & TRAVELS